1.概要
タコマ橋(タコマナローズ橋)とは、アメリカ合衆国ワシントン州タコマ市北西部の入り組んだ湾の海峡部を跨ぐ形で、1940(昭和15)年3月9日に完成し、同年7月1日に開通した新設計の吊り橋である。当時は世界で第3位の長大吊り橋(全長1.6km)であった。この吊り橋は橋開通直後から少しの強風でも激しく揺れて問題になっていたが、開通からわずか4か月後の同年11月7日に、毎秒19m/sの横風のために崩壊してしまった。
2.落橋のメカニズム
破壊の原因は、実際に吹くとは考えられていなかった、「一定の速さでまっすぐ吹く横風」が吹き続けたことによってつり橋が自励振動したためである。
タコマ橋の特徴として、スパンが非常に長く、幅が狭いものであり、細長比 \( \displaystyle \frac{l}{r} = k \) がとても大きく、座屈応力度 \( \displaystyle \sigma = \frac{E \pi ^2}{k^2} \) が小さい。つまり、小さい荷重でも座屈を起こしやすい。しかしながらこれは意図したものであり、この橋は設計者モイセーエフ氏のたわみ理論「つり橋のスパン(橋脚と橋脚の間の距離)が長くなればなるほど、ケーブルの自重が橋桁のそれに比べて相対的に大きくなり、車や人などの動くものの荷重は橋桁よりもケーブルがたわんで支えるようになる」によって設計し作られた。これは、スパンの長いつり橋を企画するためには、橋桁の部材を節約できるため、極めてコスト的に都合のよい理論であった。
構造の問題点として、タコマ橋の橋桁は、扁平なH形で、剛性補強のために斜めにトラスを張るような、ねじれ防止は行なわれていなかったことが挙げられる。
また、事故後に行なった風洞実験等によって、次の2つの要因が明らかになった。
- 橋桁の剛性が不足しており、極めてたわみやすく、またねじれやすい。
このため、簡単に振動が始まってしまった。 - 橋桁の形状が空気力学的に不安定であった。
橋桁はH形であるため桁の端で空気の剥離が起こりやすく、そのうえ渦の発生タイミングが橋桁の動きと一致してしまった。つまり、風が作り出す渦によって橋桁が動かされ、さらに動かされることによってまた新たな渦を発生させるという風の発振メカニズムを、設計者は考慮していなかった。
3.「タコマ橋の落橋」に対する自分の意見
タコマ橋のような巨大な構造物を設計する際、設計者は全ゆる荷重に対しての耐久性について検討をし、それに耐えうる構造にしなければならない。しかしなぜ「実際に吹くとは考えられていなかった風」が吹いてしまったのか、まず疑問である。確かに風速19m/sは台風と定義される風速であるが、これは十分に想定の範囲内の風速であるだろう。また、開通直後の時点でも既に弱い風で大きく橋が揺れる現象が発生していたとのデータもあり、かなり風への耐性に余裕がないように思われる。
モイセーエフ氏の理論を適用した新設計の吊り橋ということであるが、現代のようにコンピューターが出回っていなかった時代であったために、実際に起こりうる荷重のシミュレーションを満足に行うことができず、特殊で限定的な条件でのみ成り立つ理論を取り込んだことも間違いであったといえるだろう。
ほかにも、建設資金の削減のために目先の利益志向になっていたことも要因であると考えられる。技術者は如何なる時も、豊かな創造力と追及力を持ち、自然や物理現象との調和を第一に考え、論理が整合した事実の体系を構築し、技術へと応用することが大切であると強く感じた。
4.参考文献
“長大吊橋が揺れて崩落 米国のタコマ橋1940”(閲覧日:令和4年7月3日)
”失敗事例タコマ橋の崩壊”, 特定非営利活動法人 失敗学会(閲覧日:令和4年7月3日)
http://www.shippai.org/fkd/cf/CA0000632.html
岡田淳三郎, “脳回路の仕組み”, 類グループ理論研究会(閲覧日:令和4年7月3日)(令和5年12月現在 本サイト閉鎖)
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